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あなたにもいませんでしたか?気になる通勤仲間

あなたにもいませんでしたか?気になる通勤仲間


通勤・通学中に見かける仲間たち

通勤電車

二度目の緊急事態宣言下、リモートワークの方も、相変わらずの通勤・通学にいそしむ方も、それぞれだと思います。一年前とは世の中ががらりと変わってしまいましたが、思い返せば「通勤・通学」においては、だいたい毎日同じ時刻に「いつもの道」を通ることが多かったのではないでしょうか。

その道中で、なんとなく顔を合わせる人たち。直接の知り合いではないけれど、見かけるとちょっとほっとする、いつもの顔ぶれ。そんなささやかな人間関係、あなたにもありませんでしたか?

会社勤めをしていた頃の筆者にも、週に何か顔を合わせる通勤電間がいました。

毎朝見かけるあの人

中でも印象深いのは、いつも青いチェックのシャツを着て、黒いショルダーバッグを左肩に下げた男性です。

春から夏の間は、彼のシャツは半袖ですが、秋口になると長袖になります。真冬にはさすがに何か羽織っていたような気がするものの、とにかく一貫して青いチェックのシャツを身に着けていることに敬意を表して、筆者は心の中で彼のことを「Mr.ブルーチェッカー」と呼んでいました。

ブルーチェッカー氏は、筆者が途中で乗り換える電の最後尾両にいつもいました。

筆者が乗る頃にはもはやそこまでの乗車率でもなく、座席には空きのあることもありましたが、彼はいつでも一番後ろの壁に進方向を向いて寄りかかり、静かにっていました。進行方向を向いているので、左側の入り口から駆け込む筆者には、彼の左肩のバッグと、いつでも涼し気な背景の青いチェックが必然的に目に入るのでした。

毎日青いチェックのシャツで通勤できるくらいですから、服装には制限のない職種だったに違いありません。筆者の嗅覚では、デキるエンジニアとか、そんな感じの方だったのではないかと思っています。

やや猫背気味の痩躯を壁にもたせかけ、青いチェックのシャツの裾をいつもきちんとベージュのチノパンの中に入れて、彼は音楽を聴くでもなく、何かを読むでもなく、静かにそこにっていました。

彼の眼には、物的には内の様子が映っていたのでしょうが、筆者の見立てではもっと何か静謐な、この世ならぬ清らかなものが映っているかのようでした。

彼のいる電に乗るということは、筆者にとってはほぼ確実に遅刻ギリギリであるという悲しい事実がありましたが、その静かなたたずまいに、「ああ今日も無事に世界は回っている」と、朝から安堵にも似た気持ちになれてうれしかったものです。

彼に会えるのは遅刻ギリギリの朝だけ

そんなブルーチェッカー氏とは、思議なことに帰り道で遭遇することはただの一もありませんでした。

残業だったり、へべれけだったり、あるいはちゃっかり早目に上がったりと、筆者の帰時間がまちまちだったこと、また帰り道は朝に比べて人口密度が高く、あまり内の人々を眺めやることがなかったという理由もあるかもしれません。それでも確率上、沿線住民として見かけることぐらいはありそうですが、一度もお目にかかったことがないところを鑑みるに、氏はもしかすると、帰り道には別ルートをたどって小さな冒険をしていたのかもしれないなあ、と想像しています。

こうして、仕事終わりの彼がどんな表情でいるのか知ることもないまま時はれ、筆者の通勤ルートは変わりました。

そこからさらに時がれた今、ブルーチェッカー氏にお目にかかる機会はもはやありません。

しかしながらきっと今日も、彼は青いチェックのシャツを着て、どこかの駅から電車に乗り、最後尾両に静かにっているような気がしてなりません。リモートワークでそつなく業務をこなしているかもしれませんが、彼はきっと、必要かどうかに関わらず、時々電車に乗っているのではないだろうか。筆者は勝手に想像しています。

彼がほぼ毎朝乗り合わせる私の存在を知っていたかはわかりません。恐らく気づかれてもいなかったでしょう。どこから乗ってどこで降りるのかも知らないし、名前ももちろん知りません。ときめきを感じていたわけでもなく、近所の人でも同でも、仕事相手でもなかった彼。

勝手に毎朝おかけし、一方的に想像を巡らせていただけですが、筆者にとって、口をきいたこともない彼の存在は、通勤「仲間」と呼ぶにふさわしかったと思っています。

何があろうと季節は変わりなく巡る中で、こんなささやかな人間関係があったことを思い出し、通勤というのも悪くなかったな、と感慨にふけっています。

物静かなブルーチェッカー氏よ、どうか今日も幸せでいてください。


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