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年下の男の子 1

年下の男の子 1


スマホの画面には、所謂美少女と言われるキャラクターが映し出されていて、それが私の声でおしゃべりして動いている。
今流行りのバーチャル配信アプリ。
コメント欄は「かわいい」とか「がんばって」なんて応援の声で溢れていて、作られた声で「ありがとー!」なんて答える。
課金アイテムのプレゼントが投げられて配信は大いに盛り上がる。

約1時間の作られた世界。
美少女だった私の時間は終わり、ため息をついてアプリを閉じる。

深夜の1時。
「お腹空いたー」
そう言ってキッチンへ向かうとストック棚からカップラーメンを1つ取りお湯を入れてまたスマホを開く。

「今日も配信に来てくれてありがとう」
いつも通りのお礼のツイート。
直ぐにイイネが増えていく。

なんかごめんね

小さな罪悪感を抱えながら感謝の言葉を打っていく。
ファンのみんなだって分かってる。中の人が美少女じゃないことは。
でもまさか、50手前の枯れきったおばさんだなんて想像もしてないだろう。

鏡に写るその姿はどう頑張って取り繕ってみても「おばさん」でしかない。
もうごまかせる年齢ではないのは痛いほどわかってる。
重力に完敗したたるんだ頬にほうれい線。
実は老眼鏡かけないとコメントだって読めるか怪しい。

だからごめんね、と心の中で謝りながら、それでも不特定多数の異性に優しくされたくて、仮初とは言え好きになって欲しくて、辞めることが出来ない。
もうリアルで優しくしてくれる人なんてどこにもいないから。

何年も前から離婚の話が出ては子供のことを考えて踏みとどまったままの、何ヶ月も口をきいていない夫はゴミを見るような目で私に一瞥をくれると聞こえるように大きなため息をつく。
私は見てんじゃねーよ!と心の中で悪態を付くけど気付かないふりを決め込む。

もう、多分一生人を好きになることはないし、そんな必要も無い。子供たちが幸せに巣立つまで家庭に影響のない範囲で本を読んだり映画を見たり、イケメンのアイドルを推したり、好きなことをしながら、いい母でい続ければいい。

そう

思っていた。

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いくつになっても恋は楽しい

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