ドラえもんに学ぶ「国家間外交に生じる軋轢」
ドラえもんに学ぶ「国家間外交に生じる軋轢」
「ドラえもん のび太と雲の王国 」という作品では対立する国家間の外交問題をテーマにした重厚な内容となっています。
ドラえもんのひみつ道具である「雲かためガス」の力で自分が理想とする「雲の王国」を作り上げるのび太。しかしひょんなハプニングからのび太達はこれとは別に正真正銘の天上人が住まう「天上連邦」というもう一つの雲上の国の存在を知ってしまいました。
ところが天上連邦の人々は人工的にノアの洪水を発生させる「ノア計画」で地球環境を汚す地上文明を殲滅させる事を企んでいました。これが実行されたら当然のび太達の住まう世界は勿論、ドラえもんの故郷である22世紀の未来へと連なる時の歴史の命脈も寸断されて全てが水の泡です。天上連邦の計画を阻止すべくドラえもんはある非常な決断を下す事になります。
「雲かためガス」の対となる「雲もどしガス」を天上連邦への外交の切り札とした抑止力で対抗しようとするドラえもん。
- これは完全に核兵器のメタファーですね。
それにしても、たった1ページで核の抑止力の意義を解説し尽くしてしまう藤子・F・不二雄はやはり天才としか。ところが事態は急変。なんと人間サイドの雲の王国でクーデターが発生してのび太とドラえもんは囚われの身に。
クーデターの首謀者である4人のハンターは天上連邦に囚われて雲の王国へ亡命してきた密猟者の地上人。彼らには外交のテーブルへ付くつもりはさらさら無く、この「雲もどしガス」を駆使して天上人との殲滅戦争を開戦してしまいます。
「雲もどしガス」の一撃で天上連邦の都市の一角が完全消滅する大惨事に。
- 「戦争は、外交の失敗以外の何物でもない」
この名言を遺した「ピーター・ドラッカー」の指摘にそのまま当て嵌る展開となってしまいました。外交に失敗して開戦の戦争責任を感じたドラえもんは事態の収拾を図るべく自ら雲もどしガスの貯蓄タンクに特攻を仕掛けて生死不明となってしまいました。
対国家間で核の抑止力というカードを切った張本人が自らその戦争責任を取るべく自国の最終兵器へ特攻を仕掛けるなんて・・・凄まじい展開ですね。
ドラえもんの決死の働きで天上世界の壊滅が免れた事。そして、クーデターの首謀者である4人のハンターたちが特攻後に失脚した事や彼らに味方する証人が続々加勢したことでようやく交渉のテーブルへ辿り着く地上人と天上人。
最終的にドラえもんの生命とノア計画による地上世界壊滅の危機から救ったのは、のび太達の過去の陰徳でした。
天上連邦へ国家の代表として対等に話ができる立場に有る植物星の大使。この大使の正体はかつてドラえもんの「植物自動化液」で生命を与えられ宇宙へと旅だったキー坊でした。
キー坊は自らの両眼から放つ光線によってドラえもんの生命を修復。そして、大使の立場から自らの生い立ちと地上人の自然を愛する心を語り、天上連邦の人々に宇宙へ移住する為の取り計らいを提案。核の抑止力が無くとも対等に話し合える国家間の信頼関係と地上人との利害関係の解消によって天上人達はノア計画を破棄。最後はキー坊の時と同様に宇宙へと旅立っていく天上人の光景で物語の幕が閉じられました。
振り返ってみると本作には・・・
- 国家間の利害対立
- 地球規模の環境汚染とその影響
- 核の抑止力
- 国家指導者の戦争責任の在処
・・・etc
以上のように子供向けはおろか大人向けの作品であっても、非常に荷が重いテーマが目白押しで扱われている事に驚きを隠せません。子供には大冒険活劇として、大人には国家間外交の軋轢を描き出す両面を考えさせられる漫画として二つの側面をドラえもんは披露してくれます。
コマ引用:「ドラえもん のび太と雲の王国」|藤子・F・不二雄作
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