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『岸辺露伴は動かない』監督が描くヤングケアラー・ミステリー『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』批評

『岸辺露伴は動かない』監督が描くヤングケアラー・ミステリー『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』批評


70点
 
2023年12月にNHKで放送されたテレビドラマです。
1話75分の全2回、単発ドラマに近いですね。
 
聴覚障がいがテーマということもあって
デジタルデータ放送の機能ではなく
デフォルトで全字幕です。
 
さらに日本手話付きがNHK Eテレで2024年2月に放送予定。
 
 
 
演出を務めるのは渡辺一貴。
『岸辺露伴は動かない』『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』の監督です。
今回のドラマも
静かだけどスタイリッシュな映像に仕上がっています。
 
 
 
韓国での映画化も決まっているらしく
監督・脚本はムン・ジウォンだそうです。
映画『無垢なる証人』や
ドラマ『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』の脚本を担当した人で、
どちらも障がい者もの×法廷ものという内容。
『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』は
主人公の弁護士が自閉症スペクトラムですが
安易な感動ポルノに陥らず先進的な描写に成功しているので
おすすめのドラマです。
 
過去のこのブログでも取り上げたことがあります。
 
https://topview.jp/%E3%82%A6-%E3%83%A8%E3%83%B3%E3%82%A6%E5%BC%81%E8%AD%B7%E5%A3%AB%E3%81%AF%E5%A4%A9%E6%89%8D%E8%82%8C-%E6%89%B9%E8%A9%95-12396

『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』を材料にして
CODAについてどんな描写をするのか、楽しみです。
 
 
 
さて、このドラマの主人公はCODA(コーダ)です。
Children Of Deaf Adults
の頭文字を取ったもので、
耳の聞こえない親から生まれた聞こえる子どものことを指します。
 
劇中でも描かれますが
聞こえない親のために、聞こえる子どもは通訳をさせられることがあるらしく、
今風にいえばヤングケアラーとなります。
 
CODAを扱ったフィクションとしては
映画『Coda コーダ あいのうた』が
記憶に新しいと思います。
 
https://www.youtube.com/watch?v=VwGW4IPqXTg
 
題名の「Coda」は、
Children Of Deaf Adultsの略称と
終結部を意味する音楽記号の両方をあらわしています。
筆者は最初、音楽記号の意味だけに取っていました。
(というか、このダブルミーニングが伝わってない人けっこういるんじゃないか)
 
 
 
コーダ考証・手話指導として参加しているのが
脚本家・舞台手話通訳家としても活動する米内山陽子(よないやま・ようこ)です。
アニメなら『スキップとローファー』、『パリピ孔明』の脚本、
実写だと『思い、思われ、ふり、ふられ』の脚本を
監督の三木孝浩とともに書いています。
 
米内山陽子については
以下の記事でも触れているのでぜひ。
 
https://topview.jp/%E3%83%89%E3%83%A9%E3%83%9E%E5%A5%BD%E3%81%8D%E3%81%8C%E3%81%82%E3%81%88%E3%81%A6%E6%B3%A8%E7%9B%AE-2024%E5%B9%B4%E5%86%AC%E3%82%A2%E3%83%8B%E3%83%A14%E9%81%B8-14488#mcetoc_1hj6io7ou19
 
米内山陽子がTBSラジオの番組に出たときにも
『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』の話をしていました。
 
米内山陽子出演回のTBSラジオ本編動画
https://www.youtube.com/watch?v=gb-GPpd-eqY
 
このドラマのNHKの公式サイトで、
米内山陽子の寄稿が読めます。
 
https://www.nhk.jp/p/ts/D6P3JWP8J7/blog/bl/ppJz010N9p/bp/pY4Eq1JAE7/
 
以下が印象に残りましたね。
(原文ママ)
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どうせ聞こえる人が便利にろう者を使った物語だろう。
聞こえない人は心がキレイだとか言うんだろう。
お涙ちょうだいの感動ポルノだろう。
そのくらいスレていました。  
 
なぜか。
巷(ちまた)にあふれる手話やろう者が題材になった作品は、そういう感想を抱くものが多かったから。
それでもかつては「これでろう者や手話を知ってもらえる入り口になれば」と健気けなげに思っていました。  
 
30年以上、同じことを思っているのにはもう飽きました。
いつまで入り口でウロウロしなきゃいけないんでしょう。
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同じサイト内に、
ろう者・難聴者のインタビュー動画「ろう者・難聴者がドラマ出演を語る」があり、
興味深く見ました。
 
https://www.nhk.jp/p/ts/D6P3JWP8J7/movie/
 
 
 
ドラマの内容ですが、
バランスって難しいな、と思ってしまいます。
 
聴覚障がいや手話に関する描写・うんちくは見事です。
意外と、警察に関する描写もけっこうリアルです。
 
一方でストーリー展開はご都合主義的な部分が多く、
ミステリーとしても詰めが甘い。
なんで警察でもない主人公の聞き込みに色んな人が応じるんだよ、
警察の不正を告発して退職に追い込まれた主人公に警察が協力する意味がわかんない、告発の件がなくてもすでに一般人の主人公に警察が協力しすぎだろ、
法廷の手話通訳士と銘打っている割に法廷のシーンがほとんどないじゃん、
なんで犯人はそのタイミングで自供するんだよ、もっとほかのタイミングあっただろ、
などなど。
 
あとはやっぱり、
大人の男を、その犯人がその殺害方法で殺せないだろ、
という、ミステリーとしては致命的な突っ込みどころも抱えています。
 
ここまで来ると無理にミステリーの枠組みに当てはめなくてもいいじゃないか、
とも思いますが、
『Coda コーダ あいのうた』も終盤ご都合主義に陥ったところを見ると、
現実世界と同様に有効な解決策がないのかもしれません。
 
「入り口」の先に行くのも、現実問題としてなかなか難しい。
 

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ポップカルチャー評論家
専門分野は映画、ドラマ、小説、アニメ
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