みんなアリエルになったっていいじゃない
みんなアリエルになったっていいじゃない
2021年にディズニー実写映画「リトル・マーメイド」が公開される。
SNSでは19歳の黒人歌手ハレ・ベイリーが主人公のアリエルを演じることについて、「原作とイメージが違う」などの賛否の声が上がっているそうだ。
Twitterで「ハレ・ベイリー」「リトル・マーメイド」などで検索すると「黒人とか白人とかどうでもよくて、原作版とビジュアルが違うから嫌だ」という意見も目についた。
グーグル検索の際も「ハレ・ベイリー」「リトル・マーメイド」を入力すると、予測変換に「似合わない」「可愛くない」等が出てくる。
私は芸能情報に疎くハレ・ベイリーのことをまったく知らなかったが、アリエルを演じるというので興味がわき、本人のTwitterに飛んでみた。
するとそこにはフォロワーが描いてくれた自身のファンアートを積極的にRТして喜び、YouTubeの笑える動画を陽気にツイートする1人の19歳の女の子がいた。
そして1枚の絵が投稿されていた。
それはハレが投稿した黒い肌のアリエルのファンアートで、一言「夢が叶った」と、かわいい絵文字付きのメッセージが添えられていた。
ハレがアリエル役に抜擢されたことを喜んで、アリエルに扮した彼女のファンアートを投稿するフォロワーもたくさんいた。
「原作とビジュアルが違う」って結構残酷な言葉だと思う。
実際私も何の気なしによく使っている。あの俳優は原作のイメージじゃない、原作とかけ離れている、もっと原作に寄せてほしい……原作に思い入れのある人間ほどそう主張しがちだ。それは悪いことではない。
ぶっちゃけ私もよくやるし、実写映画化するならビジュアルもなるべく原作に忠実に再現してほしいと願ってる。
けどそれよりなにより重要なのは、その役をやる本人が、原作のキャラクターをどれだけ愛してるかだ。
私はどんなにビジュアルが再現されていても原作を知らない、ろくに読まない、興味もない人に演じてほしくはない。
だったら原作のセリフを覚えてしまうほどに読み込んでいるとか、子どもの頃から原作を見てずっと憧れていた人にやってほしい。
ハレの「夢が叶った。」は、昨今の人種問題やポリコレの風潮も踏まえて「黒人の自分がアリエルをやれる、夢が叶った。」という意味も含まれているかもしれないが、それ以上に「子供の頃にアニメーション映画で見て憧れていたアリエル役が自分に回ってきた、夢が叶った。」じゃないだろうか。
このニュースを聞いて思い出したのは、オーストラリア在住のアボリジニの女の子の話だ。
3歳のサマラ・ミューアちゃんは「アナと雪の女王」のエルサに憧れて、5月の終わりに母のレイチェルさんと「アナと雪の女王」のイベントにエルサのドレスを着て参加したのだが、他の参加者の親子に「どうして黒人なのにそのドレスを着てるの?」「アナもエルサも黒人じゃないのに」「黒人は醜い」といった差別的な言葉を浴びせられて大層ショックを受けた。
一連の出来事がきっかけでサマラちゃんはアボリジニのダンスレッスンへ行くのを泣いて拒否し、肌が白くなるように石鹸でごしごし擦ったりした。
この話がSNSなどで世界中に拡散されると同情が集まり、ディズニーはサマラちゃんをメルボルンのホテルで行われたディズニーのイベントに特別に招待し、頭にティアラを付けた彼女はエルサやアナと3人で記念撮影ができた。サマラちゃんはとっても喜んだそうだ。
「~~~だから~~~はダメ、イヤ」「~~~なのにおかしい」と私達はよく言いがちだ。
ダメだしする側はきっとそこまで考えてない。
ダメだしされ続ける側の気持ちがわからない。
たとえば「眼鏡で一重瞼の冴えない女の子はヒロインになれない」と誰かが言ったらどう思うか。きっと反発する。
だれかが「眼鏡をとって二重瞼にすればヒロインになるよ」という。
なるほどそうすれば「かわいい」ヒロインの条件は満たせるかもしれない。
けれど世の中には「眼鏡で一重瞼の自分が割と気に入っていて、そのままヒロインになりたい」人も大勢いる。
人種問題と身近なたとえを混同するのもアレだが、黒人がアリエルのイメージじゃないと決め付けて否定するのは、原作愛の建前を借りた視聴者の残酷さ、無邪気さを装った無神経だ。
憧れているものになれない、どうあがいても無理なんだよとあらかじめ否定されるのは苦しい。
「リトルダンサー」の主人公の少年は保守的な田舎町でバレエを学ぶが、男がバレエなんておかしいと周囲にいじめられてとても傷付く。
実力が足りない、才能がないなどの理由で否定されるケースならまだ向上や精進の余地もある。
だが容姿や肌の色、そもそも性別が異なるからお話にならないと弾かれたら頑張りようがない。
どうにもならないことでどうしても叶えたい夢を諦めなきゃいけないなんておかしいじゃないか。
叶えたい夢があるならどんどん挑戦してほしい。
「リトル・マーメイド」のアリエルは赤毛で白い肌の白人キャラとして描かれているが、女の子だろうが男の子だろうが老人だろうが幼女だろうが、だれにだってアリエルに憧れる権利はあるし、アリエルになったっていいじゃない。
アリエルを演じる条件はビジュアルを寄せることより、演じる本人がどれだけその役柄や原作に愛情を持って演じきれるかだ。
私はハレ・ベイリーのツイートを見て、この人が演じるアリエルが見たくなった。
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