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短編小説『片目の吸血鬼』

短編小説『片目の吸血鬼』


タイトル『片目の吸血鬼』
 
登場人物
 琉斗(りゅうと)
 史華(ふみか)
 琉舞(りゅうま)
 琉華(りゅうか)

ある日、見知らぬ男にある山の写真を見せられた。その日からその山に登りたいと思った。俺は山が好きだったから。
 
琉斗
「あの山に登った日から俺は不死となった。お前も俺を裏切るのか、残念だ。
…。
さて、新しい妻を狩りに行くとするか。何年持つかな。」
 
琉斗(りゅうと)
「史華は私の妻になることを拒否することもできるのだが、どうする?」
 
史華(ふみか)
「琉斗は、元は人間だったんでしょ。」
 
琉斗
「そうだ。それが妻になることと関係があるのか?俺は吸血鬼だ。過去は関係ない。」
 
史華
「どうして吸血鬼になったの?」
 
琉斗
「そうだな、話しておくか。史華は私の妻になるのだからな。あるとき、上空から不意に鋭い剣が俺の右目を射ぬいた。
余りの痛さに気を失った。
俺は山が好きで、登山に来ていた。
その山は、登山家も知らない山だった。
何故知ったかは話が長くなるからそのうち話すとして、次に目覚めたとき、俺は不死の命を手に入れた。というより、不死になっていた。」
 
史華
「その山に登るように仕向けた人は、あなたを不死にした理由があるはずよ。」
 
琉斗
「今はそんなことはどうでもよい。俺の妻になるかを聞いている。」
 
史華
「私が断ったら、琉斗はどうなるの?」
 
琉斗
「俺はどうもならないよ。お前の血をいただくだけだよ。」
 
史華
「妻になっても血を吸われるの?」
 
琉斗
「いや、俺の妻になれば、生涯血を吸われることはない。血は吸わないが、お前は妻として片時も俺のそばから離れることは許されない。離れようとした時点で、史華お前の血をいただくことになるよ。交わることで契りを確認する。」
 
史華
「琉斗が幸せになれるなら、私は琉斗と交わるわ。生涯を共にするわ。」
 
琉斗
「これでまた人間らしい生き方ができる。史華が生きている間は、人間として生きることができる。いつまでもつか…。」
 
史華
「あれから長い年月が過ぎたわ。琉斗は相変わらず若くてたくましいままなのね。私ときたら、もうこんなにも老いて琉斗の妻の役目も果たせなくなってきたわ。」
 
琉斗
「史華、ありがとう。史華のお陰で長い間人間らしく生きられた。できるものなら、史華と一緒に生涯を終えたい。でも俺にはできないのだ。自ら命を絶つことができないのだ。何度も試みたができなかった。血を吸わずにいれば死ねると思ったが、俺の記憶にない、知らない間に狩りに出掛けては生き血を…、俺は…。」
 
史華
「泣いてるのね。可哀想に。」
 
史華
「琉斗は、このまま生き続けるより、私と一緒に死にたいの?」
 
琉斗
「そうだ。俺は長く生き過ぎた。何故生かされているのかがわからない。」
 
史華
「琉斗の片目を射ぬいた剣は、今でも持っているの?」
 
琉斗
「ああ、ある。それがどうした?」
 
史華
「琉斗が私と一緒に死にたいというなら、私があなたの命を限りあるものにしてあげる。」
 
琉斗
「できるのか?」
 
史華
「できるかはわからないけど、やってみる価値はあると思う。」
 
琉斗
「できるなら、史華と共に逝きたい。俺は史華を愛しているのだ。こんなにも愛おしいと思ったのは、史華、史華が初めてだ。俺を置いて逝かないでおくれ。」
 
史華
「わかった。その剣を私に渡してくれる?」
 
琉斗
「何をしようとしているのだ?」
 
史華
「試してみるわ。そして琉斗の命が尽きたなら私も琉斗の後を追うわ。」
 
琉斗
「わかった。試してくれ。死ねたら本望だ。史華と一緒に逝けるのなら。」
 
史華
「琉斗、愛してる。後で逢いましょう。」
 
琉斗
「史華、俺も愛してる。」
 
史華
「愛してたわ、琉斗。」
 
史華
「琉斗、これであなたは不死ではなくなったわ。もう身動きもできないわね。」
 
史華
「さて、これで私は不死になれるわ。」
 
史華
「琉舞(りゅうま)、どこにいるの?母のそばにおいで。」
 
琉舞
「史華様、お呼びですか?」
 
史華
「また、そんな呼び方をする、母さんと呼びなさい。まあ、いいわ。お父様の命もあとわずかです。最期のご挨拶を。」
 
琉舞
「はい。わかりました。ではお父様、さようなら。史華様の時代が始まります。」
 
史華
「そうです。琉舞、約束していた通りに、私の片目にあの剣を突き刺すのです。琉舞しかやれるものはいないのです。琉華(りゅうか)には頼めないから。外すことのないように頼みましたよ。」
 
琉舞
「はい。史華様。」
 
史華
「琉斗、ごめんなさいね。私は死ねないのです。あなたとの間にできた二人の子供を置いては死ねないのです。この子らが不死でいる限り、私も共に生きていきたいのです。私が不死でいるにはあなたの生き血が必要なのです。」
 
琉斗
「史華、そうか、それでいい。史華が望むならそうしておくれ。二人の子供たちのことを頼む。俺のように生きることが苦しくてたまらない人生にならないように、見守ってやってくれ。」
 
史華
「子供たちのことは安心してください。私が二人を守ります。琉斗、さようなら。あなたの温かい生き血をいただくわね。」
 
史華
「あははは、私は不死になったわ。あなたが生かされた理由は、このためよ。長い間待ったわ。この二人の男女がこれから、子孫を増やし繁栄させることでしょう。」
 
史華
「さて、私は琉斗の年齢まで若返ったから、パートナーを探しに行くとしようか。それとも狩りが先かな。琉舞、琉華、二人ともさあ、行くわよ。」
 
~おしまい~
 
2022年10月24日月曜日 唯李😊⚜️
 
 

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唯李(ゆり)と申します。
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小説はモノガタリードットコムでアップしているものです。

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