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闘病マダム Ⅷ

闘病マダム Ⅷ




              大部屋から個室へ


クリスマス前だっただろうか、病院側から「個室も入れるけれどどうしますか?」と打診された。
ベッド差額代はかさむけれど、一度くらい経験したかったのでリーズナブルな部屋を選んだ。
個室にもランクがあるのだ。
実はアブク銭が入ったのだ。

ひとつはバーを営業した給付金、
ふたつめはお客様の生保レディに進められて加入した三大疾病の保険金。
給付金は更新時に閉業したから、まるまる貰えた人の三分の一くらい。
開店にかかった初期費用と同額くらい。
保険金ははじめの一時金が払い込んだ保険料とほぼ同額。
あとは生きている間毎年小遣い程度支給される。

だから気が大きくなったのだ。
病院の棟も変わり、新たな個室はパラダイス並みに快適だった。
消灯を過ぎても深夜までイヤフォンなしでテレビも見られるし専用の洗面スペースやトイレもある。
いったい何枚テレビカードを使っただろう?
大部屋でも別段不服はなかったが苦手な看護婦さんからオサラバできて
ストレスが減ったのは事実。

そして思いついたのだ。
個室で占いをやろうと!



              占い



私の店は賄いアンド占いの夜の店だった。
自分はいわばバーのマダム、なりゆきでなったようなものだ。
線香花火みたいに短命な店だった。
中身は濃かったと自分は思っているが。
もし病気にならなかったら今も惰性で営業していただろう。

賄いはその日にスーパーで買うか冷蔵庫のあり合わせで作る料理でメニューなど特にない。
家の延長のような店だった。

占いは営業ツールの一環にした。
カラオケを置いてなかったので。
トランプやタロットのカードを使ったり手相を見て
お客様と会話をする。
そこから発展してカウンセラーもどきの言葉も述べる。
むろん他人には絶対秘密だ。
いつも会う看護士さんたちにサービスで見ますよ、と誘った。
個室があるから各自の休憩時間にどんどん来る。
看護婦さんだけでなく男の介護士さん合わせ延べ30人ほどは占っただろうか。
中には謝礼を払おうとする方がいたが丁重にお断りした。

入院中に商売する人はいないだろう
前代未聞でニュースになります!
これ以上悪目立ちはしたくない!
守秘義務があるから内容は明かせないが、皆それぞれの悩みをかかえて必死で
生きていることがわかった。

当たるも八卦当たらぬも八卦の、私の言葉を真剣に聞いてくれるのだから。


次はクリスマスパーティーの話です。

                        (つづく)

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関西出身
東京女子大文理学部卒
ハウスマヌカン、派遣業、塾、コンパニオンなど様々な職歴
最近はバーのママをしていたが脳梗塞で倒れて閉業
現在リハビリ中
痴と知の融合、境界型の人間

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