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スリルとサスペンスと社会貢献

スリルとサスペンスと社会貢献


時は満ちた。

本能的にそう感じ取っていた女のもとに、適切なタイミングであることを知らせるメールが届いた。今がその時である。

しかしながら、目的地は何故か都市部に集中している。なるべく多くの人を集めたいという意図からだろうが、ただでさえ重い腰を上げて自らアクションする必要がある行為を求めるのなら、もっと満遍なく各地に点在してくれていればよいのに、と女は考える。一番近い目的地を探しても、おのれの現在地からは電車に揺られねばたどり着ける距離ではない。いや、電車に乗れば良いのだが、感染症がかくも蔓延してしまった昨今では、やみくもに電車に乗るのも憚られるものだ。

かくして女は逡巡の末、自転車で目的地に向かって漕ぎ出した。

これが結果として、良かったのかどうか、女には今もわからない。

 

さあ、この「女」こと筆者が、晩夏の白昼に自転車で向かった先はどこかと言いますと、「献血センター」なのであります。

筆者はAB型。別段特別なことでもありませんが、街中の雑踏で「血液が不足していまーす!」と呼びかける人の看板には、たいてい最も「不足」と記載されていることの多い血液型です。

それならばと、呼びかけに応じて献血センターの窓口に向かったのは大学生の頃。以来、たびたび献血をしています。

今日はもはやひそかな趣味となりつつある、「献血」についてご紹介します。

 

会えたらラッキー!献血バス

献血できる方法は主に二つ。

冒頭にご紹介した通り、主に都市部にある献血センターに出向くほか、「献血バス」にうまいことめぐり会えれば、献血をすることができます。ところが、この献血バスにめぐり会えるか否かは運しだい。正確に言うと、基本的には日本赤十字社のサイトに、「献血バス運行スケジュール」として記載されているのですが、その月の初めにならないとスケジュールがわからないという仕組みになっているのです。なにがしかのイベントに併設される場合には、ある程度前もって告知されることもあるようですが、郊外に住んでいる筆者が気軽に行けるような場所には、月に一回程度しかチャンスはなく、その日に都合が合うかというとそううまくはいかないこともたびたびです。そもそも来てくれるという事実すら、あまり大々的に告知されないことがほとんど。何度臍を噛む思いをしたか知れません。

となると、都市部にある献血センターに、自分の都合の良いときに出向いていく必要があります。

 

献血するなら予約がおすすめ

予約なしでも献血はできますが、場合によってはかなりの時間を待たなくてはいけないことも。それなら予約が、断然おすすめです。

日本赤十字社には、献血ウェブ会員サービス「ラブラッド」というものがあり、こちらで献血の予約ができるほか、今までの記録などを取っておくことができます。献血センターだけでなく、バスの予約も可能なので、初めてトライしようという方も、すでに献血経験がある方も、登録しておいて損はありません。献血回数に準じてポイントが貯められ、規定まで貯めるとなにがしかの記念品がもらえます。予約は、目的の地域あるいは、希望の日時で選択するので簡単。筆者はたいてい、空き時間の取れる日時で検索します。面白いのは、エリアを選択すればその日の全国津々浦々の献血ルーム、および各地を巡行予定の献血バスの情報を、すべて見られること。これなら、出先での空き時間とか、出張のついでとか、そういった時間を献血に充てることもかんたんにできますね。行ったことのない街、いつか訪れてみたい街の献血ルームを眺めるのも、息抜きになって乙なものです。

 

とうとう献血にやってきた!

さて、いざ献血当日。

受付では、前日の睡眠時間や食事時間、投薬の有無、最近の海外渡航歴などにまつわる質問に、タブレット端末で回答していきます。血圧や体重を図り、医師の診察を待ちます。そう、ここにも重要なポイントが!

400mlの全血献血は、体重50kg以上の人でないと受け付けてもらえないため、女性の多くが「大変失礼ですが…」と断られながら体重を聞かれたり、体重計に乗るよう求められたりします。筆者は体の弛みは気になりますが、このために50kgは下回らないことにしています。幸か不幸か、一切の努力なくして難なく基準をクリアできており、ここ最近は計量を求められることすらなくなっている現実に関しては、目をつぶっています。

ここで万が一、基準である50kgを下回ってしまったとしても、あきらめることはありません。200ml献血、あるいは成分献血という方法で、献血にチャレンジすることができるのです。最近は、200mlの全血献血は受け付けていないところもあるようですが、成分献血であれば血漿、あるいは血小板といった成分のみを提供し、残りの血液は体内に戻してもらえます。その分少し時間はかかるものの、華奢な女性でも安心です。

待合室にはベンディングマシーンがあり、好きな飲み物を好きなだけ飲むことができます。軽いオヤツも用意されており、食事時間などによってはさらにちょっとした軽食を追加でいただけることもあります。雑誌や漫画も多数取り揃えられており、さながらオシャレな漫画喫茶のよう。ここでは献血前の人も、献血が終わった後の人も、ゆっくり飲み物を飲みながら思い思いにリラックスして過ごします。本を読む人、スマホをいじる人、PCを開いて仕事する人、献血後にもらえるアイスに舌鼓を打つ人、千種万様です。

医師の診察を経て、検査用の血液を採取します。腕にチューブを巻き、「アルコールは平気ですか?」とかなんとか会話をしながら血液を採取してもらいます。筆者にとっては、ここが献血中一番の盛り上がりポイントと言っても良いかもしれません。ほぼ毎回、「わぁ~すてきな血管!」とほめてもらえるからです。どのへんがすてきなのかと言いますと、「見やすくて、刺しやすい」んだそう。確かに、チューブでしばると青々とした太い血管がうねるように浮き出します。「新人の研修用に来てもらいたいくらい」とまで言われたことがあり、たとえ血管であろうとも、人から手放しでほめてもらえるのは本当に気分が良いものです。

さて、実際にはこれからが本番なのですが、中にはここまで頑張って来たのに、検査結果により献血ができずに帰らなくてはいけない人もちらほらいます。悲しいけれども、ご本人の健康を害してまで献血はできません。筆者はそんな善意の同志たちの悲しい後ろ姿を横目で見送りながら、時間を作ってここまでやってきただけでも素晴らしい戦いぶりだったよ、とその栄光を胸の内で称えます。

本番は拍子抜けするほど平和な時間

ついに番号を呼ばれ、献血用のベッドまでやってきました。検査の結果「問題ないので400mlいただきます」と告げられた筆者は、「体から400mlの血液がなくなるわけなので、今日は水分を意識して取ってください。あとあまり激しい運動や熱いお風呂は控えるように」という注意事項を告げられ、ベッドに横たわります。ここに呼ばれるまでに、すでに待合室にてさんざんドリンクを堪能しているのですが、さらに「何が良いですか?」などと聞かれて飲み物を持ってきてもらえたりもします。いいのかな?と思いつつ、「そ、それじゃカフェオレを…」なんて言っちゃったりして、ヘッドレストに頭を乗せると、筆者にだけ、目の前にあるテレビに映っている音声が聞こえてくるのです。

それでは針刺しますねー、痛くありませんか?しびれたりしませんか?
スタッフの方はてきぱきと、仕事を進めていきます。今や筆者はまな板の上の鯉。料理人の包丁さばきに身を任せ、チャンネルを好きにいじったり、うつらうつらしたりと、平和な時を過ごします。時間にして10分~15分ほど、気持ち良く目を閉じていると、「お疲れさまでした」と声がかかり、無事に献血は終了です。ここで、本日の注意事項を再び告げられ、足をよく動かすようにとか、万が一何か不調を感じたら電話するための連絡先などを手渡され、待合室へ戻ります。

終了した人が待合室へ戻る通路にも受付があり、そこでアイスクリーム用のスプーンをいただきます。数々の試練を乗り越えて、献血を達成した者だけに許される至福の味…。ま、コンビニでも買えるアイスクリームなのですが、献血後には何か一味違うような、充足感が倍増されたまろやかな味に感じられるのです。

ベンディングマシーンの前には、飲み物がカップに注がれるのを待つ間、かかとを上げ下げして血流を促すよう注意書きがされています。また、立ち眩みなどがある場合は無理をしないこと、という優しいメッセージがそこここに。ありがたいことに健康体そのもので、あんまり人から「大丈夫?」と心配してもらえる機会がない筆者にとっては、この真綿に包まれるような優しさもまた、心地よさの一つなのです。

 

献血後は無茶をしないこと!


というわけで、数か月ぶりの献血を終えた筆者は、満足感いっぱいで帰途につきました。今まで、ただの一度も立ち眩みなど起こしたことはなく、今回も何事もないだろうと、自転車で40分強の道のりを意気揚々と走っていたのですが…。

晩夏とはいえ、日本の夏を侮ってはいけませんでした。家の近所まで来た時、にわかに目の前が暗くなり、慌てて路肩に自転車を止め、一休みすること数分。

通りかかった高校生くらいの子たちが、「大丈夫ですか?」とお水を差し出してくれ、おじさんが「熱中症か?」「救急車呼ぶか?」なんて声をかけてくれ、またまた人の優しさを痛感することになりました。

幸い、数分でまた自転車に乗れるくらいには快復したので事なきを得ましたが、献血後に無理をしない!という、職員の方との約束をきちんと守るべきだったと、大いに痛感した夏の出来事になりました。筆者のせいで事故にでもなっていたらと思うと、本当に、無謀で危険な行為だったと反省しています。 

あの時の皆さん、お世話になりました。ありがとうございました。

今度は電車で、献血に行こうと思います。


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